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PRESS 2025/06/13
競走馬の「ロドコッカス感染症」に関するタンパク質バイオマーカーを発見 検査キットの開発や創薬への活用を目指す

aiwellと、住友商事北海道株式会社(本社:札幌市中央区、取締役社長執行役員:金岡 秀紀、以下「住友商事北海道」)は、競走馬の「ロドコッカス感染症」に関するタンパク質バイオマーカーの発見に成功しました。「ロドコッカス感染症」は、特に月齢1〜6ヶ月の仔馬に肺炎や腸炎を引き起こす難治性の細菌感染症で、早期診断が難しい上、診断が遅れると死亡率が高くなるため、馬産業の中心にある馬産地の牧場、馬主などにおいて経済的損失が大きな問題となっています。

2025年時点において、競走馬(特にサラブレッド)のロドコッカス感染症に関して確立されたタンパク質バイオマーカーは、ほとんど報告がなく、今後当社では、発見したタンパク質バイオマーカーを用いて、検査キットの開発や創薬への活用を目指し、馬産業の課題解決に向け貢献していきます。

 

 

 

■背景
仔馬は病原体に対して無防備な状態で生まれ、初乳に含まれる「免疫グロブリン」を吸収し感染を防御しますが、体内の免疫グロブリンの総量は6~9週齢で最も低下し、この時期に感染症にかかりやすくなります。

「ロドコッカス感染症」に罹患した際、感染初期に顕著な症状がないことが多く、発熱、鼻漏、発咳、などの症状を認めた時には、既に病状が進行してしまっている場合が多く、朝に異常を認め午後には死に至ることもあります。また、同一牧場において集団発生することもあり、警戒が必要です。

病原菌は土壌中に生息していますが、一度汚染された土壌を消毒するのは非常に困難であり、確実な予防法はありません。そのため早期発見と早期が必要です。

 

〈経済的損失〉

北海道日高地方などの軽種馬生産地では、ロドコッカス感染症における仔馬の罹患率はおおよそ 5%前後 と推定され、同地域における致死率は 約8% と報告されています。

また、海外、特に米国やチリなどの競走馬生産国でも、ロドコッカス感染症は深刻な問題となっており、一部の生産牧場では、仔馬の発症率が10〜20%、死亡率が最大28%に達することが報告されています。

このような背景から、生産馬の死亡、抗生物質(例:リファンピシン、エリスロマイシン)や高度免疫血漿の使用に伴う医療費負担、環境消毒や衛生管理の強化に伴う費用の増加、感染後の成長、競走力低下など、生産牧場や競走馬を購入した馬主の経済的損失が問題となっています。

このような課題を踏まえ、当社は統合プロテオミクスソリューション「aiwell IPA」を用いて、「ロドコッカス感染症」のタンパク質バイオマーカー探索を実施。世界でもほとんど報告例の無い、タンパク質バイオマーカーの探索に成功しました。

 

■概要

バイオマーカーの同定に関する概要は以下です。

〈解析手法〉

北海道道内の競走馬生産・育成牧場、医療機関などの協力関係機関より提供されたロドコッカス感染・非感染個体の血清から、aiwell IPAの一連のフローによってバイオマーカーを探索しました。すなわち、二次元電気泳動(HP-2DE)によってプロテオーム画像を取得、画像データ解析によってロドコッカス感染で特異的に量的変化がみられるタンパク質バイオマーカーを発見し、質量分析によってタンパク質の種類を同定に成功しました(種類は未公表)。また、感染および非感染サンプルのプロテオーム画像はそれぞれ異なる傾向を持つことがPCA(主成分分析)で示され、発見したバイオマーカーの確からしさの裏付けとなりました。

〈バイオマーカーについて〉

疾患のバイオマーカーとは、特定の病気の有無や進行状況、治療への反応などを客観的に評価するための生体由来の指標を指します。主に血液、尿、唾液、組織などの検体から測定されることが多く、タンパク質、核酸(DNA・RNA)、代謝物などがバイオマーカーとして利用されます。本報告は競走馬の血液中のタンパク質からロドコッカス感染症のバイオマーカーを探索しました。

 


図1.ロドコッカス感染個体の血清から、プロテオーム画像を取得、分析。

 


図2.ウマ血清のプロテオームデータをPCA(主成分分析)

 

 

本画像を解析したところ、感染個体のデータ(ピンク)は非感染群のデータ(水色)とは別のクラスターに分離することがわかった。

主成分分析(PCA: Principal Component Analysis)は、多変量データを少数の「主成分(principal components)」に要約して、データの構造や特徴を視覚化・解析しやすくする手法です。ここでは各種タンパク質(図中にグレー表記)の量の増減によって、似た傾向をもつデータとして感染・非感染が別々の集団に別れました。